「初恋の悪魔」7話の考察・レビューです。
人って、記憶で出来てるでしょ?
というヘビ星砂のセリフにすべてが集約されているような7話でしたね。
- 目の前から消えた愛する人から、「私には思い出がある」と言われる馬淵。
- いま目の前にいる愛する人から、「私たちには何も思い出はありません」と言われる鹿浜。
文字どおり「目の前にいる」ということは、私たち人間同士のつながりにおいて、それほど重要なことじゃないのかもしれない。
そんなことを考えた回でした。
「初恋の悪魔」7話考察・レビュー
馬淵はかわいそうな人なのか?
手紙をもらい、泣いている時に抱きしめてもらって、大切な人を失ったことに心を寄せてくれる友人がいる馬淵と。思い出じゃないという言葉をたった一人で受け止めるしかない鹿浜と。#初恋の悪魔
— しらこ@ドラマ (@shirako_drama) September 3, 2022
私から見ると、馬淵はぜんぜんかわいそうな人なんかじゃない。
物体をともなった愛する人は消えてしまっても、手紙を読んでいたとき、トラ星砂は確かに馬淵のそばにいた。目には見えなくても。
愛する人が自分の元から消えてしまうのは悲しいことだけど、「目の前からいなくなること」は、「自分のそばからいなくなること」ときっとイコールではない。
「私には思い出がある。しかも私の思い出は私だけのものじゃない。それが嬉しい。これ以上があるか?」
とトラ星砂が言っていたけれど、馬淵の中に「思い出」が残っている限り、星砂のぬくもりは存在し続けるからだ。
「思い出」は、現在を生きる私たちと共にあるものであって、決して過去のものじゃないと私は思う。
「思い出」の残らない時間を、鹿浜はどう受け止めるのか
対して鹿浜はどうだろう。
たとえ「私たちには何も思い出はありません」と言われても、いま目の前に愛する人がいる鹿浜は幸せな人なんだろうか。私にはそうは思えない。
ここで冒頭の星砂のセリフに戻る。
人って、記憶で出来てるでしょ?
としたら、「思い出」の残らない時間は、初めから存在しないことと同じじゃないか。
ヘビ星砂がリサに再会したとき、「おかえり」という言葉が出てきたのは、リサにヘビ星砂と一緒に過ごした「思い出」があるからだ。
鹿浜は、星砂に「おかえり」とは言えない。
育まれていく関係性の中で、「寝室で寝てください」という言葉も受け入れてはもらえない。
どれだけの時間を一緒に過ごしても、ふたりの間に何かが積み重なっていくことはない。
恋をしている鹿浜にとって、こんなに苦しいことなんて、ないじゃないか。
それでも一緒に暮らし、抱きしめ、リサへの想いを一緒に背負おうとする。
それはヘビ星砂のためだけを考えているからに他ならないだろう。
馬淵の歪さはいつかの私かもしれない
馬淵はヘビ星砂に、言ってはいけないことを言ったと私は思う。
自分がいくら傷ついたからって、他の人を傷つけていい理由にはならない。
それは鹿浜が過去に出会ったおばあさんと同じだ。
自分の子どもが事故で亡くなったからって、誰かを監禁していいわけじゃない。
「あなたはそこにいちゃいけない人なんです」
なんて、自分が大切な人を失ったからって言っていいわけじゃない。
と、テレビの向こう側からは、はっきりとそう思える。
馬淵のやっていることを、間違いだと批判できる。
それでも馬淵に光を見たいと思ってしまうのは、自分にもその"スイッチ"がないとは言い切れないからだ。
自分がいくら傷ついたからって、他の人を傷つけていい理由にはならない。
というのは綺麗ごとだ。分かっているけど傷つけてしまうのが人間なんだと思う。
世の中に"いい人間"も"悪い人間"もいない。"罪を犯してしまった人間"がいるだけだ。
歪で、矛盾していて、自分を守るために誰かを傷つけてしまう馬淵は、いつかの私なのかもしれない。
おわりに
私は「ドラマは綺麗事を描くものであってほしい」と考えているので、いい人でも悪い人でもない登場人物たちが、少しでも幸せであってくれたらいいなと思っている。
だからもうね、わたしが願うことはただ一つ。
彼らがこれからも、友達でいられますように。
肩組んでチェリーを歌った思い出があるからね、きっと大丈夫だと信じています。
「摘木さんは物じゃありません」っていう鹿浜の言葉も、ここにつながってくるのかもしれないな。人間は物じゃないから。物体として存在するかどうかは、人間の全てじゃない。#初恋の悪魔
— しらこ@ドラマ (@shirako_drama) September 3, 2022
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「初恋の悪魔」概要
放送日:毎週土曜日22:00~
主演:林遣都、仲野太賀
脚本:坂元裕二(「大豆田とわ子と3人の元夫」「カルテット」など)
プロデュース:次屋尚、池田偵子
演出:水田伸生、鈴木勇馬、塚本連平