「初恋の悪魔」5話。
4話の感想で、〈「初恋の悪魔」では、消えていく・入れ替わっていく人格と、残っている・いま現れている人格を受け入れていく様を見せてくれたりするんでしょうか?〉と書いた。
「なんだこのドラマ……」と息切れしてしまうほどのとんでもない回を観終わって、
「いま自分に見えている面を、信じて受け入れること」
というのがこのドラマの一つのテーマなのかな、と思い始めている。
それを前提に、今回の5話を振り返ってみたい。
「初恋の悪魔」5話考察
①鹿浜とおばあさん
鹿浜は、人から「気持ち悪い」「変人」と言われ続けていた。
おばあさんは、過去の出来事から復讐心にとらわれていた。
けれどお互いが出会った時、相手のそんな過去は知らない。
鹿浜は、「私とおんなじ」と自分を受け入れてくれたおばあさんを信じられた。
おばあさんは、自分と同じように他人を拒否する鹿浜を「おかしな子」と言って受け入れた。
その二人の関係に、それぞれの過去は関係がない。
いま自分に見せている顔、いま自分にしてくれたこと、それが全て。
その全てがたがいに影響しあって自分も変わっていく。
それはまさに「人と人との出会いの、美しいところ」なんじゃないだろうか。
②馬淵と星砂
馬淵にとって、いま見えているのは星砂という人格だ。
そんな星砂に、馬淵は言う。
僕が好きになった人が、兄を殺したとは思えません
根拠はつまり、この人が好きだという気持ちです
「好き」という感情を理由にして、いま自分に見えている星砂を信じる、と言う。
私は馬淵のこの言葉が少し怖かった。
ヘビ女のほうが馬淵に見えてしまったら、「好きだという気持ち」はどこにいってしまうんだろう。
もし星砂の人格が消えてしまったら。「好き」が消えてしまったら、どうなるの?
と思うからだ。
きっと同じような不安を星砂は感じたんだろう。
私に何があっても、私のこと覚えててくれるかな
という星砂に対して、
覚えなくたって、忘れるわけないじゃないですか
と馬淵は言う。
いま自分に見えている人格が消えて、ヘビ女といわれる星砂が目の前に現れた時、馬淵の感情はどのように変化していくんだろうか。
ヘビ女の人格もまるごと、星砂という存在として受け入れていくんだろうか?
③CHE.R.RYの歌詞に隠されていること
印象的だったCHE.R.RYのシーン、わざわざ2番の歌詞が切り取られていた。
2番にはこんな歌詞がある。
ウソでも信じ続けられるの 好きだから
この歌詞、上で引用した馬淵の言葉を思い出させる。
まさにこのドラマのテーマと通じるものがある一節だ。
そしてCHE.R.RYを肩組んで歌うシーンは、まさにこの歌詞がぴったりだ。
この4人、たまに集まって捜査会議を開くだけである。
それぞれの過去、抱えているトラウマ、どんな思いで生きているかなんて、きっとこれっぽっちも話したことはない。
ただ、一緒に過ごす時間のなかで漏れ出てしまう空気だけでつながっている。
言い換えれば、「なんか嫌いじゃない」。もっと言えば、「なんか好き」。
そういう気持ちだけでつながっている4人が、同世代の共通言語であるCHE.R.RYを肩を組んで歌う。
なんか好きだからこそ、虚構かもしれないけれど確実に存在したその時間を、信じられるんだろう。
青春時代を憎みながら生きてきた人が、大人になって出会った友人と肩を組みながらCHE.R.RYを歌うなんて、まさに時を超えたプレゼントだ。肩を組んでCHE.R.RYを歌えなくなってしまった大人がどれだけいることだろう。 #初恋の悪魔
— しらこ@ドラマ (@shirako_drama) August 13, 2022
「初恋の悪魔」とアラサーとCHE.R.RY
さてまじめに語ってしまったけれど、CHE.R.RYのシーンは号泣ものだった。
なんてったって、アラサーにとってCHE.R.RYの威力はすさまじいものがある。
アラサーでCHE.R.RYを知らない者はいない。
ただし、CHE.R.RYに対して抱く感情も人それぞれである。
思春期にまっすぐ恋をしてきた人は何の疑念もなく共感していただろうし、あまりに自分の状況とかけ離れた世界観を苦く思って遠ざけていた人もいるだろう。
おそらく鹿浜は後者だったはずだ。
けれど、鹿浜にとってCHE.R.RYは「このサビをスルーできる人間はこの世に存在しない」曲であって、いつか誰かとカラオケで歌うことに心のどこかで憧れていたのかもしれない。
大人になって、同世代というだけで共通言語になる曲を、カラオケで肩組んで熱唱すること以上に尊いことってあるか? いや、ない。
その時だけは人格も肩書も、その時抱えている感情なんかもぜんぶ関係ない。
同じ世代を生きてきた者同士、懐かしい曲を懐かしいねといって歌うこと以外のどうでもいい現実は、その一瞬だけすべて無くなってしまうのだ。
いや〜アラサーにとってCHE.R.RYとは、それぞれの思いがある曲だと思うわけです。屈託なく歌ってきた層と、遠ざけてきた層と。鹿浜、ずっとCHE.R.RY歌いたかったのかな…… #初恋の悪魔
— しらこ@ドラマ (@shirako_drama) August 13, 2022
おわりに
来週はついにヘビ女登場!ということで、ヘビ女を前にして馬淵や鹿浜はどのように変わっていくのか、とても怖くもあり楽しみでもあります。
警察に復帰した鹿浜も、メガネを外すという変化がすでに示しているように、きっとまた別の面を見せてくれるようになるに違いない。
そのとき、「警察が嫌い」だと言っていた小鳥や馬淵は、またどう変わっていくんだろう。
あと外せないのは安田顕の存在ですね。
鹿浜は「いま自分に見えている」ヤスケンを疑いまくっていたわけだけど、実は元弁護士ということが明らかになりました。
あの激ヤバ署長ともつながりがあるようで、第2章の展開がいまから恐ろしい……!
↓第4話考察はこちら
「初恋の悪魔」概要
放送日:毎週土曜日22:00~
主演:林遣都、仲野太賀
脚本:坂元裕二(「大豆田とわ子と3人の元夫」「カルテット」など)
プロデュース:次屋尚、池田偵子
演出:水田伸生、鈴木勇馬、塚本連平